第1回 記号文化としての縄文土器

これから縄文時代に記号文化が発達していたのではないかということについてお話しします。
まず最初に人類がいつから記号や文字を使い始めたのかを説明し、次に縄文時代に記号がどのように使われていたのかという順番で説明します。

 人類が記号を使いはじめたのは今から4万年前といわれています。現生人類がアフリカを出て、氷河期のヨーロッパに到達し、定住するようになった時代です。最近の研究では氷河期の3万年間でヨーロッパ全体で使われていた記号は32種類だという結果が発表されています。

やがて世界中に進出した人類は、それぞれの地域で文字の原型ともいうべき記号(ピクトグラム)を発達させていきます。

未解読記号 インダス文字

未解読記号 半坡文字(はんはもじ)

未解読記号 オルメカ文字

 ところが記号の中には、現代の我々が使っているような文字体系にまで発達したものがあります。代表的なものがエジプト文明のヒエログリフやメソポタミア文明の楔形文字です。

 ヒエログリフは、記号が人や鳥や牛などの形をかたどって描かれ、象形文字と呼ばれています。

ヒエログリフ

 楔形文字は文字通り楔(くさび)の形に似た記号です。


楔形文字

この2つの記号体系は記号が単語(ことば)に結びついていました。言葉や単語にまで結びついた記号は表語文字と呼ばれています。


ヒエログリフと言葉の対応

 このように、人類はおよそ4万年前から記号を使い始め、約5500年前には現在の私たちが使っているような文字体系を生みだしたのです

これからお話するのはちょうどエジプトやメソポタミアで文字体系が生まれた頃の日本の記号についてです。その時代は縄文時代中期と呼ばれています。
当時の日本では文字は使われていませんでしたが記号は土器の装飾など日常的に使われていたと考えます。

世界では高度な文字が発達していたのにまだ記号しか使われていなかったのですから日本列島は原始的だったと考えてしまいそうです。しかし縄文記号は独自に高度に発達したものだったと考えます。

 それでは、このサイトで考えている縄文記号の意味と使い方の一部を簡単にご説明しましょう。

 縄文記号は土器の装飾に多く使われていました。例えば、縄文土器の蛇の装飾は記号として2つの意味を持っています。

  • 男性

長野県茅野市長峯遺跡

そして、フクロウを表す造形も記号として2つの意味を持っています。

  • フクロウ
  • 女性もしくは母

山梨県釈迦堂遺跡

長野県富士見町曽利遺跡

これらの記号は私たちが現在使っている文字と同じように意味が複数あります。

例えば「愛」という字は

  • かわいがる。いつくしむ。
  • 大事にする。
  • 男女がしたいあう。

など複数の意味を持っています。

次に縄文土器の記号の使い方について一例をご紹介します。

蛇の記号とフクロウの記号をセットで土器に配置すると

  • 男女が対になっているという状態=愛しあっている状態を表しているのではないかと考えます。

長野県茅野市長峯遺跡

長野県茅野市中ッ原遺跡

 次の3つの画像は、男女が愛し合っている状態に妊娠を表す記号と、出産を表している記号を組み合わせたと考える例です。

  • 男女が愛し合い、妊娠し、出産するという一連の長い時間の出来事をこの記号の組み合わせによって凝縮して表しています。

長野県岡谷市海戸遺跡

記号は縄文土器に独立して配置されるのではなく、重ねられたり、連結されたり、ある角度からしか見えないように配置されたりします。そのため複雑な土器の装飾にしか見えませんが、記号に分解するとおおよその意味が解ると考えます。

この土器を正面から見てみましょう。この土器は顔面把手付深鉢と呼ばれ、胴の部分が膨らんでいるため、妊婦の姿をを表しているとされています。先ほど説明した記号の組み合わせは、顔の裏側にあたります。記号の意味から考えると、この土器は全体として無事に出産することを願っていると考えることができます。

顔面把手付深鉢 長野県岡谷市海戸遺跡

  • 記号に複数の意味を持たせる。
  • 記号を組み合わせて使う。
  • 様々な表現技術と高い製作技術で作られている。

 このように、5500年前に様々な形に発達した縄文土器は、彼らにとって重要なテーマを様々な記号を使って表現することで発達させた世界の中でも独自のものだと考えています。

 さて、次回からは縄文記号を具体的に説明しながら、縄文土器を解読していきたいと思います。