第8回 縄文土器の女性記号「女性自身」

 第4回の講座では蛇をモチーフにした蛇体が男性と同じ意味で使われていたことをご紹介しました。また、第7回の講座ではフクロウをモチーフにした双環が「女性」「母」「出産を守る」という意味で勝坂式土器に使われていたことをご紹介しました。
 そんな高度な記号の使い方をしていた彼らですが、単純かつストレートに意味を表現することもありました。第5回の講座でもご紹介したとおり、男性自身(男性のシンボル)で「男性」を表したのがいい例です。今回ご紹介するのは、それと同じような方法で「女性」を表していたことをご紹介したいと思います。(遺跡名は収蔵考古館にリンクしています。)

長野県富士見町曽利遺跡

 口の部分をぐるりと取り巻く装飾が見事なこの深鉢ですが、その中で一番目立つ部分に女性自身の装飾が配置されています。

長野県富士見町藤内遺跡

 この土器も同じです。あまり目立った装飾は付いていませんが、やはり土器の一番目立つところに女性自身を配置しています。先ほどの曽利遺跡の土器と比べるとやや抽象的に表現していると思われます。

長野県富士見町広原遺跡

 この土器もやはり土器の一番目立つ場所に女性自身を配置しています。
 
 しかし、土器の一番目立つところに女性自身を配置するなんて、あまりにも大胆です。一体何を考えて彼らは土器に女性自身を配置していたのでしょうか?

長野県茅野市尖石遺跡

 そのヒントを与えてくれるのがこの茅野市尖石遺跡の深鉢です。

 この深鉢には把手(とって)が一つありますが、その片側はとぐろを巻いた蛇になっていて、その反対側が女性自身になっています。蛇体は男性を表す記号として使われていたので、女性自身は男性に対応する女性を表すために使われています。男性と女性が一体化して、女性と男性が愛し合っていることを表していると考えられます。   彼らは女性自身を土器に配置することで女性の存在そのものを表していました。それは男性自身を土器に配置して男性を表していたのと同様な表現だったのです。
 
しかし、女性自身が表しているのは女性だけではありませんでした。 


山梨県笛吹市釈迦堂遺跡

 この釈迦堂遺跡の土器は、第5回の講座で胴部分と丸い底が男性自身の特徴を表している例としてご紹介したものです。丸い輪で囲んだ部分が男性自身の形になっています。

 説明の都合上、その時は触れませんでしたが、丸い底の部分には人の形がついています。そして胴体部分は女性自身を表しています。


なぜそう考えることができるのでしょうか。


 今までの講座でも何度もご紹介してきたとおり、彼らが土器に託したのは「男女が愛し合い、妊娠して、無事に出産する」という共通テーマでした。そのテーマに従えば、この土器も男性自身と女性自身で「男女が愛し合う」という意味になり、その結果として子どもが生まれてくる出産を、女性自身と人の形を重ね合わせることで表現していると考えることができます。
 この場合、女性自身は女性という存在だけではなく、出産という行為も表していることになります。

山梨県甲府市向井遺跡

 この土器もおそらく同様の意味です。一見すると首のない人のようですが、胴部分を女性自身と重ねて表現し、そこからこどもが生まれてくることを表現していると考えられます。なぜ首を省略したのか理由はわかりませんが、彼らが表現したかったのは、子どもそのものというよりも、無事な出産そのものだったのではないでしょうか。
 つまり、女性自身は女性という存在だけを示しているだけでなく、出産という行為も表していることがこれらの土器からわかります。

長野県富士見町下原遺跡

 出産をあらわす表現として、この土器のような例もあります。この浅鉢には4つの尖った突起があります。この写真の角度からは手前の2つの突起の内側は見えませんが、奥の2つの突起の内側が見えます。向かって右側の突起の内側には女性自身が配置されています。そして、左側の突起の内側には丸い穴のような造形が配置されています。

 この2つの造形には何の関連性も見出すことはできません。しかし、この2つの造形が同じ女性自身を表していると仮定すると、右の造形は平常状態の女性自身で、左の造形は出産状態の女性自身を丸い穴で強調して示している可能性があります。つまり女性自身と丸い穴で強調された出産状態が、一つの土器に同時に表現されているというわけです。

 なぜそう考えることができるのでしょうか?

 これは少し大胆な仮説かもしれません。しかし前回の講座でご紹介した土器の中にも、女性自身と丸い穴で強調された出産状態という構図を見出すことができるのです。

山梨県笛吹市釈迦堂遺跡 水煙文土器

 

 右側のフクロウの把手に女性自身が配置されています。女性自身は、女性そのものと出産行為を表すので、前回の講座では出産を表す記号として説明しました。

女性自身の右側には大きく開いた穴があります。


 もう少し右側に回り込んで見ると、この穴はフクロウの造形の左目にあたる部分になっていることがわかります。でも左の穴だけが大きくてアンバランスです。把手がフクロウに見えにくい原因にもなっていますが、意図的にこちらの穴だけ大きくしたと考えれば、平常状態の女性自身に対比させて、出産状態を強調した女性自身とフクロウの片目を重ね合わせているとも考えられます。 
 しかし、フクロウの片目だけを女性自身と重ね合わせるなんて考えられるでしょうか? 土器に女性自身を配置すること自体、現代の感覚からすればかなり大胆です。ましてや女性自身を変形させて出産状態を強調したり、それを別のモチーフの一部分と重ね合わせるなんて、誇大(古代)妄想もいいところだと笑われてしまいそうです。

 ところが次にご紹介する土器を見ると、やはり彼らはそこまで計算して土器を作っていたと思わざるを得ません。

山梨県笛吹市水呑場遺跡

 フクロウをモチーフとする双環の左目が女性自身と重ねあわされています。双環は女性、母を表すと同時に出産を守るという意味で使われている記号です。その双環の片側を女性自身に重ね合わせ、無事に出産することをより強調しているのだと考えられるのです。

 彼らはフクロウの造形の持つ意味と、女性自身の持つ意味を結合させて新しい表現を生み出していたのです。
 彼らが女性自身で表していたのは、男性と愛し合う女性であり、命がけで子どもを出産する女性でした。彼らにとって女性とは最も大切で神聖な存在だったのです。

長野県茅野市尖石縄文考古館
長野県諏訪市博物館
長野県岡谷美術考古館
長野県富士見町井戸尻考古館
山梨県笛吹市釈迦堂遺跡博物館
山梨県甲府市山梨県立考古博物館
南アルプス市ふるさと文化伝承館

0