博物館や考古館に展示されている土器に共通の模様や造形を見つけ出すのは容易なことではありません。例えば、女性自身が「女性」「出産」を表すというルールを知らなければ、一つ一つの土器はやはり不可解な土器のままです。そもそも模様や造形が違えば、意味も違うだろうと考えるのは至極当然なことで、それは現代の私たちに限らず、縄文人にとっても同じだったはずです。共通の意味とルールが存在しなければ、やはり5000年前だろうと1万年前だろうと意味不明な物は意味不明なままだったと思いますし、そういう土器はやはり当時の多くの人には受け入れられなかったのではないかと思います。
 つまり、見ている側と共通の意味とルールがあるからこそ縄文土器は様々な表現で作られ続け、5000年前の多くの人々に受け入れられてきたのだと考えます。


 そう考えると、作者は意味のわかる共通の装飾や造形を土器や土偶のところどころに使って、集団が共有しているテーマを見る側に伝えていたはずです。それが蛇やフクロウや女性自身という造形や模様(記号と言い換えていいと思います。)だったと考えています。

 しかし、一口に造形や模様と言っても作者によって表現のばらつきがあります。人間が作るものですから100人が作れば100人の個性があり、意味が解りにくくなる可能性は常にあったはずです。彼らは意味不明になりがちな表現のばらつきを補うような「定型化」された記号をしばしば土器や土偶に使っていたと考えます。

 それが今回ご紹介する「玉抱三叉文」(たまだきさんさもん)です。

 玉抱三叉文は丸い穴と三叉文(各辺が内側に向かって湾曲している三角形)がセットになっている装飾です。三叉文が玉を抱き込んでいるように見えるということで土器の研究者は「玉抱三叉文」と呼んでいます。

 わかりやすい例として尖石遺跡の土器があります。土器の口部分の蛇体の下に丸い穴と三叉文が並んでいます。

長野県茅野市尖石遺跡

 これは一体何を表しているのでしょうか?

 
 そのことを説明するのにふさわしい土器があります。これは、女性自身を使った例として、前回の講座でご紹介した長野県富士見町曽利遺跡の土器です。楕円で囲った部分は女性自身の表現で、「女性」「出産」を表していることは前回述べたとおりです。

長野県富士見町曽利遺跡 

 この女性自身の装飾をよりシンプルに定型化したものが玉抱三叉文だと考えています。玉抱三叉文は子どもが生まれてくる穴の部分と、接している襞(ひだ)の部分を抽象化し、女性自身と同様に「女性」と「出産」を表すマークのような記号として使われていたと考えています。

 

 彼らは、様々な形の女性自身だけでなく、より誰でもわかりやすい定型化された記号として「玉抱三叉文」を考案し、土器のデザインや面積に応じて模様や造形の意図をはっきりさせるためにそれを効果的に使ったと考えています。それでは今までご紹介した玉抱三叉文を振り返ってみましょう。

 黄色で囲まれた蛇(このサイトでは男性の意味と考えています。)と青色で示した玉抱三叉文(女性・出産の意味と考えています。)で男女が愛し合っていることを表し、同時に出産も表していると考えます。

長野県茅野市尖石遺跡

 この土器も蛇(男性の意味)とフクロウ(女性・母・出産を守る存在の意味)で男女が愛し合っていることを表し、玉抱三叉文(女性・出産)で出産を表しています。フクロウは女性であると同時に母も表しているので、無事に出産を終えて母になるという意味も込められていると考えます。長野県岡谷市海戸遺跡

 国宝縄文のビーナスですが、作者が土偶の下半身と男性自身をオーバーラップさせて作ったと仮定すると、男女が愛し合った結果として妊娠したことを表していると考えます。頭部の渦巻き三叉文(この画像では玉抱三叉文の反対側にあるので見えませんが)と玉抱三叉文(女性・出産の意味)で無事な妊娠と出産を意味していると考えます。


長野県茅野市棚畑遺跡

 国宝仮面の女神も、作者が仮面裏の頭部分を男性自身とオーバーラップさせて作ったと仮定すれば、男女が愛し合った結果、妊娠していることを表していると考えます。首の両側には玉抱三叉文(女性・出産の意味)があり、仮面の裏の男性自身の下には渦巻三叉文(女性・妊娠の意味)があるので、これも無事な妊娠と出産を意味していると考えます。


長野県茅野市中ッ原遺跡

 彼らは一見すると意味不明な造形や模様を使っているように見えます。ところが実際は当時の誰が見ても意味がわかるような記号が要所要所に使われていると考えます。そして、そのことによってあれだけ大胆で個性豊かな造形や装飾を駆使することができたのではないかと思います。
 もし、このような定型的な絵文字に近い記号がそのまま
継続して発達していたのであれば、やがてエジプトやメソポタミアで使われていたような「文字」へと発展していたかもしれません。

長野県茅野市尖石縄文考古館
長野県諏訪市博物館
長野県岡谷美術考古館
長野県富士見町井戸尻考古館
山梨県笛吹市釈迦堂遺跡博物館
山梨県甲府市山梨県立考古博物館
南アルプス市ふるさと文化伝承館

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