玉抱三叉文

 勝坂式土器によく使われている装飾として玉抱三叉文(たまだきさんさもん)があります。これは丸い穴と三角形の三叉文(各辺が内側に向かって湾曲している三角形)がセットになっている装飾ですが、三叉文が玉を抱き込んでいるように見えることからそう呼ばれています。

わかりやすい例として尖石遺跡の土器があります。土器の口部分の蛇体の下に丸い穴と三叉文が並んでいますが、これが玉抱三叉文です。

長野県茅野市尖石遺跡

しかし、この奇妙な形の装飾は一体何を表しているのでしょうか?

 次の土器は女性自身(母胎の出口)を装飾として使っていると思われる土器です。楕円で囲った部分が女性自身の表現であり、「女性」「出産」を表していると考えます。

長野県富士見町曽利遺跡

 玉抱三叉文は、この女性自身(女性器)の装飾をシンプルにしたものと考えています。子どもが生まれてくる穴の部分と、接している襞(ひだ)の部分を抽象化し、「女性」と「出産」を表すマークのような記号として使っていたと考えています。

 彼らは、様々な女性自身(女性器)の装飾を土器に埋め込むだけでなく、より誰でもわかりやすい記号のような「玉抱三叉文」を、土器のデザインや面積に応じて効果的に使っていたと考えられます。

 それではいくつか例を見てみましょう。次の土器の画像では黄色で囲まれた蛇(このサイトでは男性の意味だと考えています)と青色で示した玉抱三叉文(女性・出産の意味だと考えています)で男女が愛し合っていることを表し、同時に出産も表していると考えます。


長野県茅野市尖石遺跡

 この土器も蛇(このサイトでは男性の意味だと考えています)とフクロウ(このサイトでは女性・母・出産を守る意味だと考えています)で男女が愛し合っていることを表し、玉抱三叉文(女性・出産)で出産を表しています。フクロウは女性であると同時に母も表しているので、無事に出産を終えて母になるという意味が込められていると考えています。

長野県岡谷市海戸遺跡

 国宝である棚畑の土偶も、下半身が男性自身(男性器)に見えるように作られていると仮定すると、土偶全体が男女が愛し合った結果として妊娠したことを表していることになります。頭部の渦巻三叉文(この画像では玉抱三叉文の反対側にあるので見えませんが、このサイトでは妊娠の意味だと考えています)と玉抱三叉文(女性・出産の意味)で、「愛し合って妊娠と出産」という意味になっていると考えます。

長野県茅野市棚畑遺跡

 国宝仮面の女神も、仮面の裏の頭部分がわざと男性自身(男性器)に見えるように作られていると仮定すれば、男女が愛し合った結果、妊娠していることを表していると考えます。首の両側に玉抱三叉文(女性・出産の意味)があり、仮面の裏の男性自身の下には渦巻三叉文(女性・妊娠の意味)があるので、これも「愛し合って妊娠と出産」を表していると考えます。

長野県茅野市中ッ原遺跡

 彼らは一見すると意味不明な造形や模様を使っているように見えますが、このように記号の役割を果たす装飾をところどころ使って土器や土偶を作っています。おそらく当時の人々は、その装飾の意味を理解していて、その装飾がどのように工夫されて使われたのかということまで評価されていたのではないかと考えます。また、そのような意味をはっきり表す装飾を使うことによって、それ以外の部分を大胆で個性豊かな造形として表現することができたのではないかと思います。

 もしもこのような定型的な絵文字に近い記号がそのまま継続して発達していたのであれば、やがてエジプトやメソポタミアで使われていたような「文字」へと発展していたのかもしれません。

長野県茅野市尖石縄文考古館
長野県諏訪市博物館
長野県岡谷美術考古館
長野県富士見町井戸尻考古館
山梨県笛吹市釈迦堂遺跡博物館
山梨県甲府市山梨県立考古博物館
南アルプス市ふるさと文化伝承館