縄文土器や土偶の意味を読む

 縄文土器や土偶には奇妙な造形が数多く存在します。その造形は模様のようにも、生き物のようにも見えますが、その意味はまだ誰にも明らかにされていません。
 このサイトでは、その意味を仮説的に推論して土器や土偶を解読することに挑戦しています。

おことわり

  • このサイトは、縄文時代中期(約5500~4500年前)の藤内式(勝坂Ⅱ式)、井戸尻式(勝坂Ⅲ式)を中心とした土器、土偶について解読することをテーマとしています。このサイトで述べていることが、必ずしも縄文時代のすべての土器や土偶にあてはまるわけではありません。

お願い

  • 土器や土偶の意味に興味を感じていただけたら、ぜひ考古館で実物をご覧ください。
  • 学芸員の方は確実に明らかになっていることしか説明できません。このサイトの内容を質問されても答えようがない場合があることをご理解ください。
  • 学芸員の方々は、日々発掘を行い、遺物を記録・管理し、土器の復元をはじめ様々な行事・展示まで実施されながら来館者への説明をされています。まず学芸員の方々の見解が尊重されるべきであることをご理解ください。
  • ご紹介している土器や土偶の画像については、このサイトの運営者が撮影し、非営利目的で使用しているものです。2次利用は禁止とさせていただきます。

第16回 縄文記号の使い方 象徴記号

おことわり

 今までの講座の内容および、これから説明する内容は、勝坂式(新道式、藤内式、井戸尻式)、曽利式と呼ばれる縄文時代中期の関東地方及び中部地方で作られた土器についての考察です。必ずしも日本全国すべての土器にあてはまるわけではありません。特におことわりしない限り、この講座では勝坂式、曽利式を「土器」と呼び、その「土器」が作られた当時に生きた人々を「彼ら」と呼びます。

今回の講座について

 私たちは考古館で土器を見ているときに、目の前にある土器が、出産を表す女性器の記号で構成されているとは夢にも思わないはずです。しかし、土器には女性器を表す丸穴や、女性器そのものが組み込まれていて、時には蛇の口が女性器と重複されて無事な出産を表していることを前回まで解説してきました。
 前回の内容をお読みいただいた方の中には、なぜ蛇の口が女性器と重複されているのか疑問に感じた人もいるでしょう。また、蛇の口が女性器と重複されている点について、それは個人の印象であり、見た目で判断するのは無理があると感じた方もいたはずです。
 そこで今回の講座では、蛇の口が女性器と重複されている理由について解説した上で、造形がどのように記号として利用されているのか、もう少し深く解説したいと思います。

九鬼Ⅱ遺跡の解読

 まず前回の講座を少し振り返りたいと思います。前回は山梨県都留市九鬼Ⅱ遺跡の土器に次のように記号が使われていることを解説しました。

  • 閉じた女性器と開いた女性器を対比させて無事な出産を表している。
  • 小さい丸穴と大きい丸穴を対比させて無事な出産を表している。
  • 丸穴と女性器を同時に組み合わせて使うことがある。
  • 蛇の口は女性器と重複されている。
山梨県立考古博物館

 九鬼Ⅱ遺跡の土器は蛇の口が閉じた女性器や開いた女性器に見立てられていて(重複していて)、その対比関係によって妊娠から出産までを表していました。それでは同じ表現方法を使っている土器をいくつか示します。

藤内遺跡

 次の藤内遺跡の土器は、把手の先に丸穴があり、その横に蛇の頭の装飾が付いています。丸穴の使い方としては、大きさの違う丸穴を配置して、出産前と出産後の女性器を表現する方法がありますが、この土器では蛇の口を閉じた女性器に重複しています。閉じた女性器と丸穴、その下の大きな丸穴、土器の口の最大の丸穴という一連の造形で、妊娠から出産までを表しています。

井戸尻考古館

海戸遺跡

 次は第14回第15回の講座で解説した海戸遺跡の土器の把手です。記号の3点セット(蛇、フクロウ、女性器)が「男性と女性が性交して出産する過程を蛇とフクロウが守っている」というような意味を表していることを解説しました。この把手を横から見ると、これも先程の藤内遺跡の土器と同様に蛇の口が閉じた女性器になっていて、その下の小さい丸穴、さらにその下に大きな丸穴、そして土器の口の丸穴という一連の造形で妊娠と出産までの過程を表しています。

岡谷美術考古館

 九鬼Ⅱ遺跡と藤内遺跡と海戸遺跡の把手を並べてみると、蛇の口と丸穴の構成はすべて同じです。

山梨県立考古博物館 井戸尻考古館 岡谷美術考古館

 こうして画像を並べれば把手が同じ構図なのは一目瞭然ですが、土器を個別に見ても、蛇の周辺の丸穴まで記憶していない限りなかなか類似点に気付くことができません。
 『蛇の口も丸穴も女性器と同じ意味であり、その2つが形や大きさを変えて対比されるように配置され、出産前と出産後が表現されている』そのことを意識しないと共通点に気付けないのです。

蛇の口と女性器の重複の検証

 しかし、それは架空のストーリーに見えているものをあてはめているだけだと思う方もいるはずです。通常の認識なら土器の装飾に蛇の口が使われていて、たまたまその周辺に丸穴が存在していることが多いというだけのことです。いくら私がストーリーを主張し続けても、「そんなことがあるわけない」と考える人がいるのはむしろ当然のことです。
 ストーリーが正しいのであれば、別の観点からもそれが確かめられなければいけないことは言うまでもありません。今までは事例をご紹介することばかりで説明が不十分でしたので、これからそのことについて述べたいと思います。

カエル装飾土器と仮説

 次の土器は門口遺跡の土器です。カエルの装飾を上から見ると口が開いています。どうやら口が装飾に使われているのは蛇ばかりではないようです。口の下には丸穴がついていますが、それは女性器と同じ意味ですから、カエルの口はこの丸穴と対比されていて、女性器と重複されているとみなしていいはずです。しかし、それが正しい推理なら、蛇とカエルの口には出産に関係する共通の意味がなければいけません。

撮影 シャグジ探偵・藤森寛行(Facebook)

蛇とカエルの口の共通点と象徴記号

 蛇は自分の頭よりも大きい獲物を飲み込むことができますが、それは口の根元の関節が2つあり、そこが開くことによって大きな口をあけることができるからです。また、下あごも両側に独立した骨があって左右に開くので、口がラッパのように大きく広がります。その口で自分の頭よりはるかに大きな獲物を丸のみにしてしまうのです。
 また、カエルの口も獲物を飲み込むために大きく開きますが、異物を飲み込むと胃を押し上げて口から胃袋ごと吐き出します。例えばハチのような食べるに適さないものは、口から胃袋を裏返して吐き出すのです。つまり、蛇の口は大きなものを通過させる機能があり、カエルの口も大きなものを飲み込んだり、中のものを無理やりにでも外へ吐き出す機能を持っています。蛇の口とカエルの口は、大きく開き、中のものを完全に通すことに優れているという共通点があります。

 おそらく土器の製作者は、蛇やカエルの口を、出産時の女性器に見立てて、母胎から無事にこどもが出てくるように、女性器が大きく開いて中の子どもが完全に通るように重複させたのです。
 このように、出産とまったく関係ないものが、安産に通じる好ましいイメージによって記号として扱われることを象徴記号と呼びます。当時の人々は、蛇やカエルの口、蛇やカエルそのものを安産を連想する縁起のいい象徴記号として使ったのです。
 そう考えると女性器を表す丸穴も、本来は女性器とは無関係なただの丸穴が、出産という意味と結びついて象徴記号になっていると言えるでしょう。

 しかし、それでも蛇の口が女性器と重複されている理由を裏付けたことにはなりません。たまたま蛇とカエルの生態から出産イメージに結びつくような共通性を挙げたにすぎないからです。本当に蛇とカエルの口が無事な出産イメージに結びついているのであれば、土器に使われている他の動物にも、出産のイメージに結びつくような生態がなければいけません。

イノシシ

尖石縄文考古館 山梨県立考古博物館

 イノシシが土器の装飾に使われた理由として、すぐに思いつくのが狩猟の対象だったからという理由です。しかし、そうであるなら鹿が使われている土器もあってもよさそうですがまったく見当たりません。根拠としては薄いことになります。
 それでは、イノシシは多産だから、望ましい出産のイメージに結びついて装飾に使われたという推理はどうでしょうか。豚は10匹以上も子供を産みますから、イノシシも多産だったはずだと思う方もいるはずです。ところが、イノシシが1回に出産するのは4~5頭とイヌとほぼ同じで、多産ではありません。ブタが多産なのは、人間が品種改良で1回で約15匹もの子供を産むようにしたからです。
 イノシシの出産のイメージに結びつくような独特の生態とは次のようなものと考えます。
 イノシシは母と娘のグループでそれぞれの子どもを共同で子育てします。イノシシは1歳半で成獣になりますが、母イノシシも産んだ子どもが1歳半年で成獣になると、次の子どもを妊娠することが可能になります。(雄イノシシは成獣になるとグループを離れて単独で行動します。)そこで母と娘は出産した子供を共同で育てます。これは「成メスの母系的グループ」と呼ばれています。産んだ子供が狩猟によって捕えられたり、死んでしまった場合、すぐに次の子どもが妊娠できるようになりますが、妊娠期間は約4か月と、鹿の7か月と比べても非常に短く、頭数が増えるスピードも速いのです。つまり、イノシシは成長が早く、グループで子育てをしているため、多産ではないのに見かけ上は多産に見えるのです。

 それでは当時の人々は、やはりイノシシを多産と考えて土器の装飾に採用したのでしょうか。しかし、蛇やカエルの口を記号として使うほど生態を熟知していた彼らが、イノシシのメスがグループで子育てをしているのを知らなかったとは思えません。
 また、イノシシは畑の作物を荒らす害獣ですが、この土器が作られた当時はすでに農耕栽培が行われていた可能性があります。必ずしも良いイメージだけではなかったかもしれません。それをあえて土器の装飾に使っていたのであれば、多産に見えるという理由だけでなく、イノシシが当時の人々の生活の中で何か特別なイメージを喚起するような意味をもっていなければなりません。

 おそらく、当時の人々はイノシシの繁殖力の強さと、子供を共同で無事に育てる習性を、自分たちの望ましい生活のイメージとして重ね合わせたのではないでしょうか。
 イノシシの繁殖力の強さは、人間に例えれば産後の回復力でもあり、それに支えられた次の子どもの妊娠と増加を表します。また、成メスの母系的グループは、当時の子育てが女性グループ中心で行われていたことを表しているのではないでしょうか。
 梨ノ木遺跡のイノシシの装飾の目が女性器として表されていることも、イノシシが出産を象徴する記号になっている証拠と考えます。なぜ口ではなく目なのか疑問に感じるかもしれませんが、蛇とカエルの口に共通する「開くこと」という意味では、目と女性器が重複されることは矛盾しません。
 イノシシは人間の母親が妊娠と出産と子育てをする生活イメージに重ねあわされていたのです。

尖石縄文考古館

フクロウ

 第5回第6回の講座で述べたように、双環と呼ばれる装飾はフクロウの顔を表していると考えています。なぜなら、土器の中には具象的にフクロウの顔を表したと思われるものが存在し、双環はその顔を省略した装飾だと考えているからです。フクロウは人間の生活テリトリー近くの森や林に生息しています。なぜなら、年間を通じて餌となるネズミが集まりやすいからです。フクロウは木の穴の中で卵を産み、畑で捕らえた野ネズミをヒナに与えて育てます。
 フクロウが木の穴の中で子育てする生態は、母親が胎内で子どもを育てながら活動し、出産後も育児をする母親のイメージと重複されていたのではないかと考えます。なぜなら、双環自体がフクロウの顔であると同時に女性器を意味する丸穴と重複されているからです。

尖石縄文考古館 釈迦堂遺跡博物館

抽象文

 抽象文と呼ばれる動物の装飾がありますが、サンショウウオであるとか、蛇を表した装飾であるなど諸説があります。しかし、現在のところ、どの動物にも比定されていません。何の動物かわからないので、それが出産に関連する生態を持っているのかわかりません。
 しかし、抽象文をよく見ると、蛇やカエルと同じように口が強調されています。この動物の口も出産に関係する意味を持たせてあると考えます。口を強調する一方で、誰が見てもわかるような全体像の再現性についてはあまり注意が払われていないため、結果として抽象文と呼ばざるを得ない不可解な動物に見えていますが、彼らにとって重要だったのは、口に重複されている象徴的な意味を示すことだったのでしょう。

尖石縄文考古館

 このように、当時の人々が土器の装飾に使っている動物は、出産や子育てについて、当時の人々が持っていたイメージにつながる生態的な特徴を持っています。蛇の口もその一例であり、無事な出産を表すために女性器と重複したり、丸穴との対比関係で出産までの過程を表すための象徴記号なのです。

大木戸遺跡 

 とぐろを巻いた蛇が口をあけている土器です。左隣の土器と重なっていて画像では少しわかりにくいのですが、蛇の下には双環の丸穴があり、それと蛇の口が対比関係にあります。また、土器の口も大きな丸穴ですから、それとも対比関係にあります。蛇の口と双環の丸穴と土器の口で、出産の過程を表しています。
 私たちの目には、口をあけた蛇が付いている土器にしか見えないのですが、見た目からは想像できない意味がそこに表現されています。

山梨県甲府市山梨県立考古博物館

梨ノ木遺跡

 次も蛇と双環の組み合わせの土器です。蛇は小さな口を開けていますが、この口も双環の丸穴と対比関係にある女性器と考えていいはずです。
 しかし、今までの解説を踏まえても、この蛇の口が本当に女性器を表しているのかと考えてしまいます。また、当時すでに農耕栽培がおこなわれていた可能性がありますから、蛇もフクロウも、作物を荒らすネズミを駆除してくれる存在として装飾に使われただけと考えてもよさそうです。

長野県茅野市尖石縄文考古館

 しかし結論としてはやはりこの蛇の口も女性器と重複されていると考えていいでしょう。
 今までご紹介してきた土器を含め、すべてが土器型式も地域も近いものです。製作者が丸穴と蛇の口を対比させる表現方法を知らなかったとは考えにくく、双環と蛇は記号の3点セットの要素のうち2つを満たしており、蛇の口が女性器と重複されていれば、記号の3点セットになります。そのことも知らなかったとは考えにくいからです。

造形と記号の関係
 
 ここまで読んできてお気づきの方もいるかもしれませんが、すでに蛇の口が私たちの目に女性器に見えるとか見えないとかいう問題はあまり重要ではなくなっています。
 たしかに造形にどのような意味があるのかを考える上で、見た目の類似性は私たちにとって大きな手掛かりになります。今までの解読もそれを手掛かりにして記号としてどのような意味があるのか考えてきました。
 しかし、最も重要なのは彼らが造形にどんな意味を与えたのかということなのです。
 おそらく彼らは丸穴や蛇の口以外にも、あらゆる造形にそれぞれ望ましい意味を割り当てていたはずです。彼らはそれを他のパーツと対比させるなどして、望ましいことを表現することを重視しています。おそらく彼らにとって、パーツの本体である全体像を忠実に再現することはそれほど重要ではなかったのです。
 パーツには別の意味の形を重複させる場合もあるので、結果的に土器の造形は現実に存在するようでいて、存在しない不可解なものに見えるのです。これは土偶にも同じことが言えます。
 つまり、土器はまるでヒントが混じっているモザイク画像のようなものであり、蛇の口と丸穴のように、意味がわかる部分だけ私たちの目にはっきり見えているに過ぎません。見えるものだけが意味を持っているのではなく、見えていないものにも意味があるのです。
 このことは、私達にとって単純な構図に見える土器こそが、彼らが最も言いたかったことが表現されていることを示唆します。双環と蛇の土器はまさにそういう事例です。
 蛇の口や丸穴には見たままの認知とは別の意味が重複されていることを認識する必要があるのです。

記号に関するまとめ

今回の講座で述べたことをまとめると下記の通りです。

  • 彼らは、現実にこうなってほしい状況を土器の装飾に使っている。
  • 蛇の口やカエルの口は、「開くこと」という共通性があり、無事な出産を表す象徴記号になっている。
  • 蛇やカエル以外の動物装飾も、無事な出産や母親のイメージと重複する象徴記号になっている。
  • あらゆる造形のパーツは彼らの生活にとって望ましい意味を割り当てられている。
  • 彼らは造形のパーツが、表そうとしている意味の対象に似ていることよりも、そのパーツに割り当てた意味を使って、他のパーツと対比させるなどして表現することを重視している。
  • 彼らはパーツの本体である全体像を忠実に再現することにはこだわっていない。こだわっているのはパーツに割り当てた意味である。
  • 私達に意味が認識できる造形だけが意味を持っているのではなく、認識できていない造形にも意味がある。
  • 単純な構図に見える土器に彼らが最も言いたかったことが解りやすく表現されている。
  • 造形には見たままの認知とは別の意味が重複されていることを認識する必要がある。

 これらの事項は、彼らが物を作るときや認識するときの考え方の特徴であると同時に、彼らの表現方法が記号によって拡張された結果でもあるのです。

象徴記号を使う彼らの人間像

 現代の私たちからすれば、蛇やカエルやフクロウやイノシシなどを土器に使っていた彼らに対して、原始的なイメージを持ちます。
 ところが実際の彼らは、女性が妊娠中も活動し、安全に出産し、回復し、共同で子育てをするという、ある意味で現代の私たちの社会においても成しえない生活を動物の姿を借りてまで表現しています。人間に危害を加える可能性のある蛇やイノシシまでもが、彼らにとっては吉祥をもたらす象徴記号でした。
 そこには、何かに見立てて自分たちの生活を表現する知性と、動物に対する対等な視点が存在します。
 また、前回までの講座でも述べたとおり、土器に性交の意味が表現されている場合があります。それだけを聞くと彼らが作った土器は性風俗的な産物と誤解されるかもしれません。
 しかし、当時は土器に表現されているような性交、出産、こどもの成長、そして出産という過程で、多くの人が死んでしまったはずです。生き永らえた人も世代交代を見届けることができたとは限りません。
 それでも彼らは無事な出産と繁栄が続くことを1000年間土器に表現し続けました。土器には個人の生の理想ではなく、終わりのない「死なない生の理想」が凝縮されています。

 もちろん平均寿命、母系制社会、農耕の実態も十分に解明されたとは言えません。彼らの生活の大部分は未だに多くの謎に包まれています。動物の土器装飾で何がわかるのかと学問的見地から問われれば、私の立場では今まで述べてきた仮説的推論を示す以外にありません。
 しかし、同地域に存在した近縁の土器型式において、記号と配置の意味を一部分でも特定できれば、周辺の土器や土偶の意味が芋づる式に理解できる可能性があります。その解読事例を積み重ねていくことで、彼らの生活の輪郭を捉える事が可能です。
 彼らが何を考えていたのか解明するのを諦めるのではなく、方法はどうであれ、遺物の評価の解像度をあげ、それらをどう関連付けて仮説的推論を積み上げるかが問われています。

彼らの現実は私たちの想像のずっと上をいっているのです。

補足:

 私は第3回の講座で、蛇の装飾に睾丸がついている事例があるので蛇が男性を表していると説明しました。そして第14回の講座ではその前提で記号の3点セットの意味も説明しています。それなのに蛇の口が女性器と重複されているのなら、もともと蛇は男性でも女性でもなかったのではないかと疑問を感じた方もいるかと思います。
 今回の講座の内容からすれば、蛇の口周辺に、対応関係となるような丸穴があれば女性器と重複されていることになるので、蛇が女性を意味することにもつながりますから、蛇はもともと男性でも女性でもなかったと考えるほうが辻褄があうと思います。
 しかし、結論としては蛇はやはり男性を表していたと考えます。なぜなら、土器の装飾に使われている動物(蛇、カエル、フクロウ、イノシシ、抽象文)の中で、事例は少ないものの、男性器と重複されているのは蛇だけだからです。もちろん他の動物の装飾の中にも男性器との重複が隠れていて、それを私が見落としているとすれば別ですが、現在のところ男性要素を含んでいる事例がみられる動物は唯一蛇だけです。
 今回の講座の内容は、丸穴と蛇の口の対比で説明しましたが、厳密に言うなら、丸穴と蛇と口の3つです。
 蛇と口は、男性と女性器を意味し、男女が性交していると解釈してもいいはずです。その結果、丸穴の出産に至ったと解釈するほうが土器の意味の構成や記号の3点セットの説明とも整合しますし、彼らの見立てと組み合わせの巧妙さを考えるならば、それぐらいの意味を持たせていることは十分考えられます。
 しかし、丸穴との対比関係で口が女性器と重複されている表現は多くの土器で見られますが、同時に蛇に睾丸を配置してあるような事例は皆無ではないものの殆んど見当たりません。また、この時期には男性要素としての石棒が盛んに作られ、大型化していく一方で、蛇の装飾は中期の終わり頃ほぼ消滅してしまいます。蛇と重複された男性の意味は、蛇の口が安産の象徴記号として使われる過程で、徐々に女性を表す意味の中に吸収されていったのではないかと考えています。

長野県茅野市尖石縄文考古館
長野県諏訪市博物館
長野県岡谷美術考古館
長野県富士見町井戸尻考古館
山梨県北杜市考古資料館
山梨県笛吹市釈迦堂遺跡博物館
山梨県甲府市山梨県立考古博物館
山梨県南アルプス市ふるさと文化伝承館