縄文土器や土偶の意味を読む

 縄文土器や土偶って奇妙な形のものが多いと思いませんか?
 いったい何のために5000年前の縄文人はこんなものを作ったのでしょうか。見れば見るほど謎は深まるばかりです。

 しかし、その形と模様には共通の意味とルールがあって、それさえ知っていれば誰でも意味が読めるとしたらどうでしょうか? 土器や土偶の意味が読めたら素晴らしいと思いませんか。

第15回 縄文記号の使い方 重複と対比

 前回の講座では、長野県岡谷市海戸遺跡の土器を解読して、縄文記号がどのように使われているのか説明しました。今回の講座では、別の実例でその内容を補足しながら、もっと複雑な土器を解読したいと思います。

記号の3点セットと女性器の表現技法

 まずはじめに、前回の講座でご紹介した海戸遺跡の土器について振り返ってみたいと思います。

 海戸遺跡の土器には双環文と蛇体と女性器の記号の3点セットがあり、「男女が性交して妊娠して出産する過程を蛇とフクロウが守っている」という意味を表していました。

 その他にも、閉じた女性器、開いた女性器、最大に広がった女性器の3つの造形を使って、妊娠から出産までを表現していました。

 次にご紹介する下原遺跡の土器も、海戸遺跡の土器と同じような記号の使い方で製作されていると思われます。閉じた女性器、開いた女性器、最大に開いた女性器の3つが組み込まれているのですが、どこがそうなのかおわかりになりますか? 画像の中から探してみてください。

 わかりにくかったと思いますが、次のように組み込まれています。

 これらの女性器は、海戸遺跡の土器と同じように妊娠から出産までを表現していると思われます。

 また、土器の口部分には蛇体、女性器、双環の3つが使われていて、記号の3点セットになっています。

 しかし、ご覧のとおり2つの土器は形も雰囲気も違います。おそらく製作者も違うはずです。発掘された場所も40キロほど離れています。製作された時間の隔たりも1年や2年ではなく100年以上あるかもしれません。にもかかわらず、ここまで同じ表現技法が使われているとはどういうことなのでしょうか。

 また、こう思った方もいるはずです。閉じた女性器は蛇体の頭の口部分ではないか? そもそも模様を女性器と見ようとするからそう見えるだけで、それは目の錯覚に違いない。

 もちろん、そう考えるのは自然なことだと思います。しかし、次のような事例を見ると、蛇の口と女性器は重複されていると考えざるを得ません。

蛇の口と女性器の重複

 この土器は山梨県都留市の九鬼Ⅱ遺跡で発掘された土器です。土器の口にはとぐろを巻いた蛇体が配置されています。その蛇の口を横から見ると、海戸遺跡の閉じた女性器と同じ形になっていて、明らかに蛇の口と女性器を重複させています。

 他にも蛇の口が女性器と重複されていると思われる土器があります。次の画像は長野県富士見町の曽利遺跡の土器ですが、土器の口部分に大口を開いた蛇の頭が配置されていて、その下に双環が配置されています。蛇の下あご部分から、とぐろを巻いた小さな蛇が右に伸びています。

 この小さな蛇の口も横から見ると閉じた女性器の形をしています。

 それでは大口を開けている蛇の口も女性器だと考えたいところですが、こんな奇妙な形を女性器と考えるのはやはり抵抗があります。

 それでは、別の要素から考えてみましょう。小さな蛇の口が閉じた女性器とすれば、双環と小さな蛇で記号の3点セットになります。製作者が記号の3点セットの表現技法を意識したのであれば、一番目立つ大きい蛇を使わないはずがありません。必然的に大きい蛇の大口も女性器を重複させていると考えるのが自然です。

 また、記号の3点セットを使っているのであれば、閉じた女性器と開いた女性器を対比させる表現技法も知っていた可能性があります。小さい蛇の口を閉じた女性器としたのであれば、必然的に大きい蛇の口は開いた女性器を表し、土器の口は最大に広がった女性器ということになります。

 このように記号の構成を考えると、大きな蛇の大口も女性器と重複している可能性が高いといえます。おそらく、製作者は大小2つの蛇の口を使って、閉じた女性器と開いた女性器を対比させ、土器の口を最大に広がった女性器とみなすことによって、妊娠から出産までの過程を表したと考えます。

 蛇の口と女性器を重複させた土器が複数存在するのであれば、最初にご紹介した下原遺跡の蛇の口も、閉じた女性器と重複していると考えていいはずです。地域や年代や作者を超えて、共通の表現技法が伝承されていたことになります。(蛇の口が女性器と重複されている理由については別の講座に譲りたいと思います。)

 ここまで、記号の3点セットと女性器の表現技法について述べてきました。ここで、もう一つ重要な表現技法について補足しておきたいと思います。それは丸穴の表現技法です。

丸穴を使った表現技法

 前回の講座では、彼らが丸穴を女性器や出産を表す記号として使っていたと述べました。その理屈では、あらゆる丸穴は女性器ということになるはずです。土器の口部分を女性器と重複させるのも、丸穴を女性器と考えている一例ということになります。

 それでは、丸穴はどのように土器に使われていたのでしょうか。

 次の下原遺跡の土器には、双環文と玉抱三叉文が重なっている造形があります。双環文はフクロウを表し、出産を守る存在という意味です。(第5回の講座を参照ください)玉抱三叉文は女性器・女性・母・出産を意味します。(第8回の講座第9回の講座を参照ください)2つの記号で「出産とそれを守るフクロウ」というような意味が表現されていると考えます。

 それでは、なぜ双環文と玉抱三叉文が重複しているのでしょうか? 出産を守るフクロウの丸穴と、同じく出産を表す玉抱三叉文の丸穴が、「出産」を表す女性器という共通の意味を持っているから重複させているのです。

 丸穴は全て女性器ですから、双環の両脇の小さい穴も女性器であるはずです。大きな丸穴と対比させるために配置されていると考えれば、閉じた女性器と開いた女性器を対比させる表現技法と同じです。さらに土器の口の丸穴を含めて、閉じた女性器→開いた女性器→最大に開いた女性器と対比させることで、出産の過程を表していることになります。

 このような丸穴と女性器の関係をよく表しているのが次の土器です。

 第13回の講座で述べたとおり、渦巻はへその緒を表した妊娠の記号です。左の渦巻は妊娠を表し、隣の女性器で出産を表しています。女性器の上の渦巻は出産後にへその緒が女性器から出た状態を表しています。これに対して、小さい丸穴は出産前の妊娠した女性器です。そして、大きい穴は開いた女性器です。つまり左側と右側で妊娠から出産までを表現を変えて表していることになります。まるで同じ言葉をひらがなとカタカナで書き分けているような状態がこの土器にあらわれています。

 忘れてはならないのが、土器の口です。妊娠と出産の2種類の表現に加え、土器の口の丸穴を最大に広がった女性器と重複させて、妊娠から出産までの過程を完成させています。

 以上が丸穴の表現技法についての補足です。

 ここまで解説してきた土器の表現技法について、まとめると次のようになります。

 しかし、納得いかない方もおられると思います。解釈に当てはまりやすい土器だけ選んで説明しているだけで、解読なんて幻想と思う方もいるでしょう。たしかに、文字のない5000年前のことですから、いくら土器が解読できると主張したところで、それが正しいのか証明することは困難です。正しさが証明困難ということは、間違っていることも証明困難です。だから言いたい放題言っていると思う方もいるはずです。

しかし、私はこう考えています。

 土器や土偶の模様や造形が、すべて同じテーマを表現するために存在していると仮定します。そのテーマに沿って、多くの土器や土偶の意味が同じ理論で読めるのであれば、仮定の正しさを裏付けることになります。

 それでは、いままで説明してきた理論で、もっと複雑な装飾の土器を解読してみましょう。

表現技法を手掛かりとした解読

 次の土器は、蛇の口と女性器が重複されている証拠としてご紹介した山梨県都留市九鬼Ⅱ遺跡の土器です。

 大きな2つの把手と、尖った突起が2箇所あり、土器の口部分には先ほどご紹介したとぐろを巻いた蛇体が配置されています。その蛇の口は横から見ると、閉じた女性器になっていました。

 大きな把手の上には、蛇の頭がついていますが、その口の部分も横から見ると女性器の形になっています。口はわずかに開いているので、開いた女性器と考えます。

 そして、土器の口部分は最大に開いた女性器を表し、閉じた女性器と開いた女性器、そして最大に開いた女性器の3つで妊娠から出産までを表現しています。

 大きな把手には、小さい丸穴と大きな丸穴がついています。小さい丸穴は閉じた女性器、大きな丸穴は開いた女性器に対応しています。

 また、土器の口を上から見た時にも、大きな丸穴と小さい丸穴が対比して見えるよう、把手の裏側にも丸穴があけられています。

 大きな把手には顔のような造形があります。ところが、その顔には目・鼻・口がなく、のっぺらぼうです。これは、第11回の講座で述べたとおり、出産の際に母胎から子どもの頭が出てくる場面を表しているためと考えます。

 また、把手部分は双環と蛇体と女性器の3点セットになっていて「男性と女性が性交して出産するのを蛇とフクロウが守っている」という意味のイデオムになっています。

 つまり、この土器も先程の土器と同じように、妊娠から出産までのストーリーを、2通りの記号の組み合わせで表現していることになります。閉じた女性器と小さな丸穴は同じ意味で、開いた女性器と大きな丸穴も同じ意味です。そして土器の口の丸穴は、出産の際に最大に広がった女性器を表しています。

 まるで、ひらがなとカタカナの2種類を使うように、女性器と丸穴の形や大きさを対比させて配置し、さまざまな角度から見てもストーリーが一目で読み取れるよう、記号の3点セットや実際の出産シーンまでも組み込んでいます。記号の重複と対比と組み合わせを見事に使いこなし、妊娠から出産までの経過を立体的に合体させています。

記号の形や大きさを対比させて共通テーマを表現する

 ここまでご紹介してきた土器は、すべて「女性が無事に出産を終える」というテーマに沿って作られています。彼らが共通テーマを表現するために、記号を重複させたり、形や大きさの違いを対比させて出産までの過程を土器に表現していることがおわかりいただけたでしょうか。

彼らにとっての装飾とは

 土器には奇妙な造形や無数の穴があります。私たちは、一目でわかるような、蛇の頭や口をあけている造形や丸穴に注目します。そして、それらには別々の意味があって、土器の装飾に使われているのだろうと考えてきました。

 ところが、彼らは造形を単独で装飾として使っていたのではなく、複数の造形の前後関係によって、文脈(ストーリー)を表現するパーツとして使っていたのです。私たちにとっては、ただの蛇の口や丸穴にしか見えなくても、彼らにはそれが女性器にも見えていたはずです。

 彼らにとって装飾は文脈(ストーリー)を伝え、読み取るためのものであり、その文脈は「女性が無事に出産を終える」という命がけの行為でした。

 今回の講座で、彼らと同じコンテキスト(前後関係や文脈)を理解したことによって、私たちはすでに直観的に記号を見出せるようになっているはずです。もし、考古館で土器や土偶の実物を見て、そのことが実感できれば、私たちは5000年前の縄文人と同じ意識で、同じものを見ていることになるのではないでしょうか。

次回の講座では、今回説明できなかった謎について考えたいと思います。

長野県茅野市尖石縄文考古館
長野県諏訪市博物館長野県岡谷美術考古館
長野県富士見町井戸尻考古館
山梨県北杜市考古資料館
山梨県笛吹市釈迦堂遺跡博物館
山梨県甲府市山梨県立考古博物館
山梨県南アルプス市ふるさと文化伝承館