第3回 蛇・男性

今回は蛇の記号について説明したいと思います。

蛇の装飾は男性を表していると考えています。なぜそう考えるのかというと、男性器をオーバーラップさせたと思われる蛇の装飾があるからです。いずれも蛇の造形の脇に丸い玉のような突起がついているのが特徴です。
次の画像は蛇体把手と呼ばれ、土器の口部分についていた破片ですが、蛇の頭の下の両側に2つ丸い突起がついています。


長野県茅野市和田遺跡

 次の土器も、胴体部分から口の部分にかけて蛇の造形がついていますが、蛇の頭の下の両側に丸い突起がついています。


 長野県岡谷市榎垣外遺跡

 このような蛇の装飾や装飾はそれほど一般的ではありません。ごくまれに見つかる程度のものです。偶然そのように作られたという可能性もまったくないとは言い切れません。しかし、蛇が男性を意味していたと考える理由が2つあります。

・彼らはかなりの技術を駆使して計画的に土器を製作しているので、たまたま気まぐれや偶然で作ったとは考えにくい。

・蛇が男性を表すものと、あたり前に考えられていたのを、製作者がより丁寧に表現した結果、こういう表現になったのではないか。

縄文土器は高い熟練技術で計画的につくられたものです。気まぐれや偶然ではなく、このような細かい部分にこそ、当時の人々が何を考えていたのかが残されているのです。

蛇の装飾はリアルなのものから、ほとんど蛇だとわからないぐらい省略されたものまで様々な種類があります。次の長峯遺跡の造形は蛇をリアルに表した代表的なものといえるでしょう。


長野県茅野市長峯遺跡

 次の土器の黄色く囲んだ部分は、あまりリアルな蛇の表現にはなっていません。しかしこれも蛇だと考えられます。青で示した部分は玉抱三叉文と呼ばれる模様で、このサイトでは女性・出産を表す記号と考えています。このような蛇体と玉抱三叉文の組み合わせは、男性と女性が愛し合い、その結果として出産することを表しています。記号を使って重複する意味を組み合わせて表現することが、勝坂式土器の大きな特徴です。


長野県茅野市尖石遺跡

 次の曽利遺跡の土器も同じです。出産と女性を表す玉抱三叉文記号(青色の部分)と男性を表す蛇(黄色の部分)がセットで配置されています。黄色の部分は蛇らしい特徴があまり見当たりませんが、蛇を省略した装飾だと考えられます。この土器も先ほどの土器と同じように、男性と女性が愛し合い、その結果として出産することを表しています。


長野県富士見町曽利遺跡

 蛇の記号はリアルなものから省略された記号まで様々です。省略方法によって、様々なバリエーションがあるので、代表的なパターンをご紹介します。

 次の釈迦堂遺跡と下ノ原遺跡の土器は、マムシの銭型の模様の特徴だけを残して、あとはほとんど省略されている例だと考えます。

山梨県笛吹市釈迦堂遺跡


長野県茅野市下ノ原遺跡

 次の中ッ原遺跡と曽利遺跡の土器は、蛇の口の部分の特徴だけを残して、あとはほとんど省略している例と考えます。


長野県茅野市中ッ原遺跡


長野県富士見町曽利遺跡

 次の海道前C遺跡と曽利遺跡の土器は、蛇の頭の部分の特徴だけを残して、あとは省略していると思われます。

山梨県甲府市海道前C遺跡

 次の曽利遺跡の頭の部分はとてもユニークです。蛇の頭を省略しているのですが、その中にまるで漫画のように横から見た男性器が描かれているのがわかるでしょうか。これも蛇が男性器や男性と同じような意味に考えられていたことをあらわしていると考えます。


長野県富士見町曽利遺跡

 そのほかにも、構成上の約束になっているかのように、共通の場所に配置されている例もあります。それぞれは蛇に見えない場合もありますが、蛇の頭や口を省略したものです。

このように、縄文時代中期の土器には、様々なパターンで蛇の造形がつかわれていて、いずれも蛇そのものだけでなく、男性も同時に表す記号として使われていたと考えます。

いよいよ冬も本番になってきました。長野や山梨は一段と寒さも厳しい季節です。しかし、冬期こそ考古館で縄文の作品をゆっくり鑑賞できるシーズンです。長野県や山梨県の考古館には縄文時代を代表する土器や土偶がそろっています。ぜひ足を運んでいただき、縄文記号を探してみてはいかがでしょうか。

長野県茅野市尖石縄文考古館
長野県諏訪市博物館
長野県岡谷美術考古館
長野県富士見町井戸尻考古館
山梨県笛吹市釈迦堂遺跡博物館
山梨県甲府市山梨県立考古博物館
南アルプス市ふるさと文化伝承館