縄文記号講座 女性の記号

第7回 縄文土器の女性記号「女性自身」

投稿日:2018年3月21日 更新日:

 記号という言葉を使うと何だか難しい印象になってしまいますが、彼らは文字を持たない代わりに模様や造形で意味を表していたに過ぎません。例えば、男性自身の造形で「男性」を表すとき、男性自身の造形は記号としての機能を果たしていたことになります。今回は同じように「女性」を表していたと思われる記号をご紹介したいと思います。(遺跡名は収蔵考古館にリンクしています。)

 土器の口の部分をぐるりと取り巻く装飾が見事なこの深鉢。一番目立つ部分に女性自身の装飾が配置されていると考えます。

長野県富士見町曽利遺跡

 次の土器もやはり土器の一番目立つところに女性自身を配置していると思われる例です。先ほどの曽利遺跡の土器と比べると女性自身をやや抽象的に表現していると思われます。

長野県富士見町藤内遺跡

 次の土器もやはり土器の一番目立つ場所に女性自身を配置していると考えます。

長野県富士見町広原遺跡

 しかし、土器の一番目立つところに女性自身を配置するとはあまりに大胆です。一体何を考えて彼らは土器に女性自身を配置したのでしょうか。この土器がそのヒントになると考えています。

長野県茅野市尖石遺跡

 この深鉢には口の部分に把手(とって)が一つあります。手前側はとぐろを巻いた蛇になっていて、反対側は女性自身と思われる造形になっています。この把手は、蛇(男性を表す記号と考えています。)と女性自身(女性)で『男性と女性が愛し合っている』ことを表していると考えます。つまり、 彼らは女性自身を土器に配置することで女性の存在そのものを表していたと考えます。

 次は釈迦堂遺跡の土器です。黄色い円で囲んだ部分が逆さまの男性自身の形に見える例として以前の講座でもご紹介したものです。


山梨県笛吹市釈迦堂遺跡

 丸い底の部分(男性自身の頭の部分)には人の形がついています。そしてその人の形の胴体部分は女性自身の造形と重ねあわされていると考えます。


今までの講座で何度もご紹介してきたとおり、彼らが土器に託したのは『男女が愛し合い、妊娠して、無事に出産する』というテーマでした。そのテーマに従えば、この土器も男性自身と女性自身で『男女が愛し合う』という意味になり、出産を女性自身と人の形を重ね合わせることで表現していると考えることができます。この場合、女性自身は女性という存在だけではなく、出産という行為も表していることになります。


次の土器もおそらく同様の意味だと考えます。一見すると首のない人のようですが、胴体部分を女性自身と重ねて表現し、そこから生まれてくる子どもを表現していると考えます。なぜ首を省略したのか理由はわかりませんが、彼らが表現したかったのは子どもそのものというよりも、無事な出産そのものだったのかもしれません。

山梨県甲府市向井遺跡

 他にも出産をあらわすと思われる土器をご紹介しましょう。
この浅鉢には4つの尖った突起がありますが、右側奥の突起の内側には女性自身と思われる造形が配置されています。そして左側奥の突起の内側には丸い穴のような造形が配置されています。

長野県富士見町下原遺跡

 この2つの造形には何の関連性も見出すことはできません。しかし、この2つが女性自身を表していると仮定すると、右の造形は平常状態の女性自身で、左の造形は出産状態の女性自身を丸い穴で強調して示している可能性を想定することができます。女性自身と丸い穴で強調された出産状態の女性自身が、一つの土器に同時に表現されているという仮定です。

 なぜそんな仮定が成り立つのか、その理由は前回の講座でご紹介した土器の中にあります。

山梨県笛吹市釈迦堂遺跡 水煙文土器

 右側のフクロウの把手に女性自身が配置されています。(女性自身は、女性・出産を表す記号だとこのサイトでは考えています。)

 そして女性自身の右側には大きく開いた穴があり、この穴は出産の瞬間を強調していて、女性自身の造形と対比させて配置されている可能性があります。

 さらにこの穴を右側から見るとフクロウの左目の部分になっています。

 フクロウの片目だけを女性自身と重ね合わせるなんてことは通常の発想ではなかなか考えられません。ましてや女性自身を変形した造形で、出産の瞬間を強調しているとは推測の域を超えて妄想に近いようにも思えます。事実このサイトでも最初はそれは妄想だと考えていました。

 ところが、次にご紹介するような土器を見つけたために、彼らがそこまで計算して土器を作っていたという可能性を否定するわけにはいかなくなってしまったのです。

山梨県笛吹市水呑場遺跡

 この土器は、フクロウを表す双環の左目と女性自身の造形が重ねあわされていると思われるのです。女性自身の造形は女性そのもの・出産を表す記号で、双環は女性・母・出産を守る存在を表す記号だとこのサイトでは考えていますから、この土器は無事に出産して母親になることを表現していることになります。

 このように、部分的に記号が共通するのは偶然ではなく、彼らは女性自身やフクロウの造形を組み合わせて、男性と女性が愛し合うことや、命がけで子どもを出産する女性を表現していたと考えます。彼らにとって女性はそれだけ重要な存在だったのです。

長野県茅野市尖石縄文考古館
長野県諏訪市博物館
長野県岡谷美術考古館
長野県富士見町井戸尻考古館
山梨県笛吹市釈迦堂遺跡博物館
山梨県甲府市山梨県立考古博物館
南アルプス市ふるさと文化伝承館

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