縄文記号講座 女性の記号

第13回 縄文土器・土偶の女性記号「渦巻模様」「渦巻三叉文」

投稿日:2019年6月16日 更新日:

 縄文時代の渦巻き模様は記号ですと言われたら、あなたはどう思いますか?

 確かに土器や土偶に渦巻き模様がついていることがありますが、それが記号だなんていわれても、本当にそうなんだろうかと疑問に思うはずです。文字ならともかく、4000年や5000年前の時代に模様に意味があったなんて、常識的に考えればそんなことがわかるはずがありません。

 私だってそう思っていました。考古館で渦巻き模様がついている縄文土器や土偶を見ても、『渦巻き模様がついているなあ』ぐらいでした。
 この土偶の胴体にも渦巻き模様がついています。もし、あなたがこの土偶に説明文をつけるとしたらAとBのどちらを選びますか?

山梨県北杜市 金生遺跡

 常識的に考えれば正解はもちろんAです。しかし、本当の正解はBだとしたらどうでしょう。
『ええ? 渦巻模様がへその緒? なんでそんなことがわかるの?』
誰でもそう思うはずです。

 今から約5500年前から約1000年ぐらいの間、渦巻模様は妊娠を意味する記号のような役割を果たしていました。もちろん、当時の日本列島の渦巻模様の全てが同じ意味だったというわけではありません。しかし、少なくとも中部・関東を中心とする地域では渦巻模様は妊娠という意味を表していたと考えます。今回の講座では、そのことについてご紹介したいと思います。

 まず、渦巻模様の意味を解説する前に、別の模様について説明します。なぜなら渦巻模様は、いきなり説明できるものではなく、関連する模様から段階的に理解してはじめて意味がわかってくるからです。

 中部・関東地域の考古館を訪ねたことがある方なら見覚えがあるかもしれませんが、土器や土偶にはしばしば渦巻模様と三角のような模様が一緒に使われていることがあります。この三角のような模様は三叉文と呼ばれていますが、渦巻模様と三叉文は一体化した模様になっているとこのサイトでは考えていて、それを渦巻三叉文(うずまきさんさもん)と呼んでいます。

 渦巻三叉文の意味は、さらに別の模様から推測できます。少し回り道のようですが、その模様について説明し、次に渦巻三叉文、そして最終的に渦巻模様の意味を説明します。

 これから説明するのは玉抱三叉文(たまだきさんさもん)と呼ばれる模様です。

 玉抱三叉文は、丸い穴の部分と三叉文がセットになった模様で、丸い穴で子どもが生まれてくる母胎の出口を表し、三叉文で襞(ヒダ)の部分を表すことによって、女性器全体を表しました。 彼らは文字を持っていませんから、「女性」や「出産」や「母親」を表すために、そのような 簡略化した模様を使ったのです。
(詳しくは第8回の講座第9回の講座を参照)

 それでは渦巻三叉文はどんな意味に使われたのか、玉抱三叉文との関連から少し分析的に考えてみましょう。

 まず、渦巻き三叉文は玉抱三叉文と同じように女性器の襞(ヒダ)を表す三叉文がついています。そのことから渦巻三叉文も女性器を表していると仮定できます。しかし、玉抱三叉文は丸い穴なのに、渦巻三叉文は渦巻きですから、何らかの意味の違いがあるはずです。

 そこでさらにこう仮定してみましょう。玉抱三叉文の丸い穴は子どもが生まれてくる女性器の出口部分でした。そこが渦巻きになっているので、母胎の中にへその緒がある状態を表しているとします。つまり渦巻三叉文は妊娠している状態を表していると仮定するわけです。

 玉抱三叉文は「女性」「出産」「母親」を表していますから、渦巻き三叉文は「女性」「妊娠」「妊婦」を意味し、渦巻三叉文の一部である渦巻模様はへその緒を簡略化した模様ということになります。

 これで、ようやく渦巻模様がへその緒を意味するところまで辿り着くことができました。

 冒頭でご紹介した金生遺跡の土偶は、胴体の渦巻模様によって母胎の中にへその緒が存在し、妊娠している=妊婦であることを示しているわけです。

 しかし、おそらくそれだけでは渦巻模様の意味を納得することはできないと思います。

 そもそも土偶は妊婦を表すために作られたものです。もともと妊婦として作られたものなら、なぜわざわざ渦巻きでへその緒を表す必要があったのでしょうか。土偶に渦巻きがついていたからといって、それがへその緒を表している証拠だとは言い切れませんし、こじつけと思われてもおかしくありません。

 それに、渦巻模様の意味の根拠である渦巻三叉文や玉抱三叉文の意味も言ってみれば仮説的推論です。『そう考えればつじつまがあうから、そうこじつけたんだろう』そんなふうに思われて当然です。

 また、第9回の講座第10回の講座第11回の講座では、へその緒はこどもが生まれたことを表すパーツだということを述べました。おなじへその緒なのに、今度は妊娠を表すというのでは腑に落ちません。少し考えただけでも、簡単にそんな疑問が湧いてくるはずです。

 しかし、もしも今まで述べてきたように、渦巻模様がへその緒を簡略化した模様だとしたら、金生遺跡の土偶は国宝級の土偶に匹敵します。

『ええっ本当に? 金生遺跡の土偶が国宝級?』

 たしかに、突然そんなことを言われれば誰だって驚いてしまいますよね。そもそも国宝に指定される基準が何かよくわからないのに、この奇妙な形の土偶が国宝級なんて、まったく意味がわからないと思います。しかし、この土偶の特徴を丁寧に見ていくとその理由が徐々に分かってきます。

 まず何と言ってもこの土偶で印象的なのは奇妙な顔です。大きく穴のあいた目とラッパのような口はとうてい人間のようには見えません。これを見た人の中には、宇宙人ではないかなどと言い出す人もいるかもしれません。
 たしかに奇妙な顔ですが、このサイトではこれはフクロウの顔を表したものと考えています。土偶を裏から見ると、そこにはフクロウの目の特徴である大きな2つの丸い穴が存在します。裏から見て似ているというのは、いかにもこじつけのように思われるかもしれません。しかし土偶の裏側にも表側と同じ渦巻きがついているので、もともと裏側から見られることを想定して土偶が作られていることがわかります。つまり、顔の部分は裏から見ても意味がわかるように意識されて作られています。

 それでは、なぜ顔をフクロウにしたのでしょうか? フクロウの造形の意味は第5回の講座第6回の講座で述べていますが、「女性」「母親」「出産の守り神」です。土偶の顔をフクロウにすることによって、「母親」と「出産の守り神」を表現し、無事に出産して母親になることを表したと考えます。

 次にご紹介する特徴は、土偶の頭部の形です。この土偶の頭部は国宝の中ッ原遺跡の土偶「仮面の女神」と共通の形をしています。

 仮面の女神については第4回の講座で説明しましたが、頭部分を男性器の形にすることによって、男性と女性が合体することを表し、その結果として妊娠し、無事に出産することを祈念するために作られたものでした。

 金生遺跡の土偶も、仮面の女神のように頭部を男性器の形にして男女の合体を意味し、顔をフクロウにすることによって「女性」「母親」「出産の守り神」を意味しています。仮面の女神と同様に、無事に出産して母親になることを祈るために作られた土偶だと考えることができます。

 また、仮面の女神はお腹が膨らんでいて妊娠していることが一目瞭然でしたが、金生遺跡の土偶は、お腹にあたる部分には何の膨らみもつけてありません。 おそらく、ボディーとのバランスを考えてわざとそうしたのだと思いますが、そのままではわかりにくい土偶になってしまうので、胴体に渦巻きをつけて妊娠していることを明確に表し、男女の合体→妊婦→出産→母親という一連の過程を表現したのだと考えます。
(仮面の女神のおなかに渦巻きのような模様がついています。これは渦巻きに見えますが、よく見ると同心円が重なりあったものです。このサイトでは渦巻きと同じように考えていいのか、今の段階では意味を推測しかねています。)

 また、国宝の棚畑遺跡の土偶「縄文のビーナス」も第4回の講座で述べた通り、下半身が男性器に見えるように作られていて、仮面の女神と同じく男女が合体し、妊娠して無事に出産することを祈念するために作られた土偶でした。
 ですから、金生遺跡の土偶も、縄文のビーナスや仮面の女神と並んで国宝に指定されてもおかしくない土偶だと考えることができるのです。

 このように、今から5500年前から約1000年の間、中部・関東を中心とする地域では、模様は単なる装飾としてだけでなく、意味のあるものとして使われていました。彼らにとって、どのような些細な模様や造形であっても、そこには必ず意味があり、決して無駄な装飾はなかったはずです。
 その装飾の中には、渦巻模様のようにへその緒や妊婦を意味する模様として受け継がれ、金生遺跡の土偶のように縄文時代の終わりに近づくまで使われ続けたものがあったと考えています。
 
 もし考古館に出かける機会があれば、そのことを頭の片隅において土器や土偶を見てはいかがでしょうか? ひょっとしたら突然目の前の土器や土偶の意味がわかるかもしれません。

長野県茅野市尖石縄文考古館
長野県諏訪市博物館長野県岡谷美術考古館
長野県富士見町井戸尻考古館
山梨県北杜市考古資料館
山梨県笛吹市釈迦堂遺跡博物館
山梨県甲府市山梨県立考古博物館
山梨県南アルプス市ふるさと文化伝承館

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