第8回 縄文土器の女性記号「玉抱三叉文」

 博物館や考古館に展示されている土器は、模様や形も様々です。それらの土器から共通する模様や造形を見つけ出すことができて、その模様や形の意味が分かれば、土器全体の意味もだいたい分かるはずです。

 例えば、女性自身(女性器)の造形は「女性」「出産」を表すというルールを知っていれば、一つ一つの土器の姿形は違っていても、同じ模様や造形があれば、「女性」や「出産」を表した共通する土器だと推測することができます。

 これは、現代の私たちに限らず、縄文人にとっても同じだったはずです。共通の意味とルールが存在しなければ、やはり5000年前だろうと1万年前だろうと意味不明な土器は意味不明だったと思います。そこに製作者と見ている人との共通の意味とルールがあったからこそ、模様や造形が様々に工夫されて土器が作られ続けたのだと考えます。


 言い換えれば、土器の製作者は共通の装飾や造形を使って、集団が共有しているテーマを見る側に伝えていたはずです。今まで述べてきたような蛇、フクロウ、男性自身、女性自身も、製作者がテーマを表すための表現だったと考えていいと思います。

 しかし、一口に造形や模様と言っても、製作者によって表現のばらつきがあるはずです。100人が作れば100人の個性があり、意味が解りにくくなる可能性が常にあったはずです。そのためには、ある程度定型化された模様や造形を記号のように使ったと考えます。

 その代表的な記号が今回ご紹介する「玉抱三叉文」(たまだきさんさもん)です。

 玉抱三叉文は丸い穴と三叉文(各辺が内側に向かって湾曲している三角形)がセットになっている装飾です。三叉文が玉を抱き込んでいるように見えるということで土器の研究者は「玉抱三叉文」と呼ばれています。

 わかりやすい例として尖石遺跡の土器があります。土器の口部分の蛇体の下に丸い穴と三叉文が並んでいます。

長野県茅野市尖石遺跡

 これが三叉文の基本的な形です。しかし、これは一体何を表しているのでしょうか?

 
 それを分かりやすく示している土器があります。これは、前回の講座でもご紹介した長野県富士見町曽利遺跡の土器です。楕円で囲った部分は女性自身(女性器)の表現で、「女性」「出産」を表しています。

長野県富士見町曽利遺跡 

 この装飾をよりシンプルに定型化したものが玉抱三叉文だと考えます。玉抱三叉文は子どもが生まれてくる穴の部分と、接している襞(ひだ)の部分を抽象化し、女性自身(女性器)と同時に「女性」や「出産」や出産を終えた女性である「母親」を表すマークのような記号として使われていたと考えています。

 彼らは、より誰でもわかりやすい定型化された記号として「玉抱三叉文」を生み出し、土器のデザインや面積に応じて意図をはっきりさせるために効果的に使っていると考えています。

 それでは今までご紹介した玉抱三叉文を振り返ってみましょう。

 黄色で囲まれた蛇(このサイトでは男性の意味と考えています。)と青色で示した玉抱三叉文(女性・出産の意味と考えています。)で男女が愛し合って出産することを表していると考えます。

長野県茅野市尖石遺跡


長野県岡谷市海戸遺跡

 この土器も蛇(男性の意味)とフクロウ(女性・母・出産を守る存在の意味)で男女が愛し合っていることを表し、玉抱三叉文(女性・出産・母親)で出産を表しています。フクロウは女性であると同時に母も表しているので、無事に出産して母になるという意味を玉抱三叉文の母親という意味と重ねて表していると考えます。

 国宝縄文のビーナスですが、作者が土偶の下半身と男性自身をオーバーラップさせて作ったと仮定すると、男女が愛し合った結果として妊娠したことを表していると考えます。頭部の渦巻き三叉文(この画像では玉抱三叉文の反対側にあるので見えませんが)と玉抱三叉文(女性・出産・母親の意味)で無事な妊娠と出産を経て母親になることを意味していると考えます。


長野県茅野市棚畑遺跡

 仮面の女神も、仮面裏の頭部分が男性器とオーバーラップさせて作られているとすれば、男女が愛し合い、妊娠することを表していると考えます。首の両側には玉抱三叉文(女性・出産・母親の意味)があり、さらに仮面の裏の男性器の下には渦巻三叉文(女性・妊娠・妊婦の意味)があるので、これも無事な妊娠と出産の結果として母親になることを意味していると考えます。


長野県茅野市中ッ原遺跡

 彼らは一見すると意味不明な造形や模様を使っているように見えますが、実際は当時の誰が見ても意味がわかるような記号を要所要所に使っています。よく見れば意味がわかるような表現はしっかり残しつつ、大胆で個性豊かな造形や装飾を駆使したのです。
 このような定型的な模様や造形が、もしも縄文時代中期以降もそのまま継続して発達し続けていれば、それはやがてエジプトやメソポタミアで使われていたような「文字」へと発展していたかもしれません。

長野県茅野市尖石縄文考古館
長野県諏訪市博物館
長野県岡谷美術考古館
長野県富士見町井戸尻考古館
山梨県笛吹市釈迦堂遺跡博物館
山梨県甲府市山梨県立考古博物館
南アルプス市ふるさと文化伝承館